★[感想]どん底

 感想記事の抜粋


原題 どん底
惹句
監督 黒澤明
俳優 捨吉 / 三船敏郎
女優 お杉 / 山田五十鈴
女優 かよ / 香川京子
俳優 六兵衛 / 中村鴈治郎
短期間・低予算で作られた黒澤作品。自堕落天国、どん底の感想です。

 

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紹介

マクシム・ゴーリキー原作の戯曲を黒澤明が映画化、舞台は江戸時代の貧乏長屋。
主演は三船敏郎、山田五十鈴。左卜全の演技が心に残る。
昭和32年度芸術祭参加作品。
  
 

 

  

感想

名だたる映画賞を受賞。スピルバーグやルーカス、コッポラに師と崇められ、影響を受けた業界人数知れず。世界のクロサワと呼ばれた男、黒澤明。

七人の侍、用心棒、天国と地獄、赤ひげ、・・・。有名な作品は一通り観たので他の作品はどうなのかと、姿三四郎、生き物の記録、野良犬と観てきました。今回はどん底。ゴーリキーの同名戯曲の映画化、黒澤明ってロシア好きだなぁ。公開は1957年。蜘蛛の巣城(1957年)と隠し砦の三悪人(1958年)の間に公開されています。

観始めてすぐに後悔、これは・・・。いったい誰がこういう映画を観るんだろう。これをお金を払って観る、また時間をかけて制作するのはなぜか? その気持ちがわからない。というのが最初の感想でした。

物語の舞台は江戸時代の長屋(木賃宿?)。ボロ屋の中には囲炉裏が。周りの壁、押入れみたいなところの上下に、住人たちは暮らしています。江戸時代のカプセルホテルか。
ヨイヨイの役者 (藤原釜足)、御家人の成れの果て (千秋実)、元気な飴売り(清川虹子)、妄想が激しい夜鷹(根岸明美)、少し景気がいい泥棒 捨吉(三船敏郎)、小煩い鋳掛屋(東野英治郎)と病気で寝たきりの女房(三好栄子)・・・。罵り合い、馬鹿にして、泣いて、喚いて、歌って、飲んで、踊って。それがずっと続きます。観てるのがしんどい。

公開は1957年、125分モノクローム。昭和32年というと、いざなぎ景気前。日本が敗戦を引き釣り、まだまだ貧乏だった時代。観客はこの長屋風景をみて、何を思ったのでしょうか? 自分たちの生活より酷い? 自分たちよりまし?

私は子供の頃に住んでいたおんぼろバラックを思い出しました。あんまりおんぼろ、倒壊寸前。なので小学校の家庭訪問の時、先生を連れてくる経路を母が指定したほど。しかし先生に近道を聞かれ、素直に裏口を案内しちゃって、あとでひどく怒られたのを覚えています(正面玄関はまだまともだった)。あの家よりは広くていいかも。洪水にもならないし。
(^^)

しかし、お遍路さん、嘉平(左卜全)が加わり、話の流れが変わります。住民たちを労り、やさしく諭す嘉平。徐々にみなに慕われ始めます。この男はいったい何者?

その嘉平と吝嗇な大家、六兵衛(中村鴈治郎)とのやりとり。どちらもひと昔前は悪党か、腹を探り合います。嘉平のいう

「 どんな悪党でも誰かには好かれているものさ。だがその誰かもいなくなったら、もうお終いというのさ 」

に、心惹かれました。黒澤明はこれを言わせたくて、この映画を撮ったに違いない。そう私は思いましたが、ネットの感想では、この台詞について触れてる人は見つからず、違うのかなあ。

大家殺害の事件の最中、すがたをくらます嘉平。なんとも現実的な展開。神様・悪魔が人の姿で現れることなんてありません。

女房が死に気を落とす留吉。怒ってばかりの役が多い東野英治郎の、落ち込む演技はちょっと物足りなく感じます。左卜全との格の違いか。この役は志村喬でも無理。助さん角さんを連れ、諸国を漫遊するまでには、あと12年の歳月が必要です。
(^^)

大家の女房、お杉(山田五十鈴)といい仲だった捨吉(三船敏郎)。捨吉は今、お杉の妹、かよに夢中という設定。だらだらと続く話は、演出のひとつだったのか、後半、あれよあれよと急展開。引き込まれます。

この辺の話運びはやっぱり黒澤明という感じ。それに山田五十鈴の演技に圧倒され、ぐうの音もでません。

残った住人たちは、相も変わらす自堕落。ああやつて、終わるしかないだろうなあという終わり方。疲れたなあ。

アカペラのジャムセッション。笛と太鼓のビートボックス、踊りにも切れがあります。
なんかとっても楽しそう。この頃は孤独死とか、なかったのでしょうか? まだ人と人が根底でつながっている感じ。満員電車に毎日乗ってる方が不幸せかも。

汚れた服を着てれば、もう汚れる心配をしなくていい。金がなければ盗られる心配もない。そうなると人はだらしなくなるものか、花の江戸はともかくロシアは寒かろうに。

どん底というわりには、貧乏の汚さ、臭さがが表現されてないのがもったい。あの時代に戻りたくないから今日を頑張る。そんなワンカットが欲しかったところ。
 

 

蘊蓄

黒澤作品にしては珍しく、短期間・低予算で作られた作品である。
脚本は2週間で書き上げ、40日間に及ぶ入念なリハーサルを経て、3ヶ月の撮影期間で作品を撮り上げている。
撮影はマルチ・カム方式で行い、3・4台のカメラで10分近いシーンを一気に長回しで撮り上げた。
黒澤は本作の成否をキャスティングにあると考え[1]、「よほどうまい役者を全員揃えて、演出もそれを信頼してやろう」と語っている。そのため、出演者は三船敏郎、山田五十鈴、中村鴈治郎を始め、千秋実、藤原釜足、左卜全、渡辺篤など、黒澤組の常連俳優を中心に豪華な俳優陣で固めた。作品は特定の主人公が存在せず、三船も長屋の住人の1人として登場する。
原作では巡礼者ルカに相当する役を左卜全がその特徴的なキャラクターを以て演じており、こちらが主役級といえる。

 

資料

原題 どん底
英題 The Lower Depths
惹句
脚本 黒澤明、小国英雄
原作 マクシム・ゴーリキー

監督 黒澤明
制作 黒澤明
指揮
音楽 佐藤勝
主題
撮影 山崎市雄
編集 黒澤明
美術 村木与四郎

俳優 捨吉(泥棒)/ 三船敏郎
女優お杉(大家の女房)/ 山田五十鈴
女優 かよ(お杉の妹)/ 香川京子
俳優 六兵衛(大家)/ 中村鴈治郎
俳優 殿様(御前)/ 千秋実
俳優 役者(役者くずれ)/ 藤原釜足
女優 おせん(夜鷹) / 根岸明美
女優 お滝(飴売り)/ 清川虹子
俳優 喜三郎(遊び人)/ 三井弘次
俳優 留吉(鋳掛屋)/ 東野英治郎
俳優 辰(桶屋)/ 田中春男
女優 あさ(鋳掛屋の女房)/ 三好栄子
俳優 嘉平(巡礼)/ 左卜全

会社 東宝
配給 東宝
公開 1957年9月17日
上映 125分
国旗 日本
言語日本語

  

 
 

本編を観るには・・・


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参考・引用

どん底 (1957年の映画) – Wikipedia
『どん底』(1957)社会の底辺で暮らす人々は虚無的で自堕落に落ち込み、朽ちて行く。: 良い映画を褒める会。
黒澤明式『どん底』(1957) – 映画とその原作
「どん底」三井弘次、左卜全、藤田山。
どん底:黒沢明の世界
どん底 | 戸田学の映画誌
★★★【映画評】どん底(1957)黒澤明監督特集8 | Flourella blog

 

更新履歴

初出)2019年07月09日、シネマドローム
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