楳図かずお原作のホラー、実写映画化。赤んぼ少女の感想です。
作品紹介
トラウマ少女大量排出! 楳図かずおの少女漫画ホラーを実写映画化。
出演 水沢奈子、斎藤工、野口五郎、浅野温子。2007年 山口雄大監督作品。
古い洋館、その奥の井戸の中、今日もひとりで泣いている。その少女の名前はタマミ。
感想
田舎の駅に降り立つ少女。町はひどい大雨。どこが道で、どこがそうでないのか。それすらわからない、一面の水たまり。
昭和35年の夏。付き添いの男はタクシーを呼ぶが、行き先を告げた途端に断られる。不安な顔で空を見上げる少女、葉子。
タクシーの中、少女に話かける男。
《 あの屋敷はこの辺りの住民からは恐れられているけど、なんの心配もいらないんだよ 》
車は森の中を縫うように走る。 外は暗闇、窓を叩くのは風に騒ぐ枝葉か、力を増した雷雨(かみなりあめ)か、それとも・・・。突然、車は停まり、運転手が振り返る。
《 お客さん、どうやらエンジンがいかれちまったようだ。おれはここで夜明かしもできるが、あんたら、どうする? 》
雨の中を歩く二人。車から離れたのを待ちかねたように、タクシーはエンジンをかけ、来た道を戻っていく。恨めしそうに車を見つめる二人。
(ほほぉ、なかなか見せるなぁ)
洋館は広い庭、それを囲む高い塀、その上には有刺鉄線。入るものも出るものも拒む堅い門。しかし、二人をすんなりと受け入れる。
《 すいませーん 》 、 、 《 すいませーん 》
何度目かの呼び鈴に玄関の扉は開き、年老いたメイドが出迎えた。
《 行方不明だったお嬢様を連れてきました 》
そう、興奮気味に話す男を遮り
《 今日は来客の予定は聞いてません、すぐにお帰りください 》
醒めた目で同じ言葉を繰り返すメイド。帰れ、帰らない、帰れ、帰らない。長い押し問答が続き、結局は共に屋敷の主の元へ行くことに。雨に濡れたままの少女はひとり、暖炉のある部屋に残される。
服を乾かし、落ち着きを取り戻した葉子。孤児院では考えられない贅沢な部屋。辺りを見回すとどこからか赤ん坊の声が。
悲しみの交じった泣き声、いっこうに止む気配がない。その声を追い、屋敷の奥へと進む少女。この部屋だわ。ノブに触れるとドアは簡単に開いた。
さほど広くはない部屋。三方の壁には天井まで届く棚、そのひとつひとつにたくさんの人形が。小さいもの、大きいもの。着飾った彼女たちはそれぞれ、どこかを見つめています。中央には小さなベット。赤ちゃんの泣き声はその上から。一歩また一歩。そっと近付く葉子、あと少しで手が届く。まるで玩具のゼンマイの切れたかのように止む泣き声。そして少女の悲鳴。
《 きゃ~~っ 》
そこにあったのはセルロイドの人形、ひび割れた顔が痛ましい。
ばたん!!!
急に扉が閉まり、部屋に閉じ込められる葉子。
《 出して!出して!!、だれか~ 》
暗い部屋で、何かが動く。ドアは開かない、でもその上には小さな窓。台に乗り上半身を押し込む葉子、両足をばたつかせる。そいつはその足首に狙いを定めた。
《 ギャっ 》
痛みに顔を顰(しか)める葉子。頭から廊下に落ち、そのまま気を失った・・・。
(タマミか・・・)
これは渋谷で見た映画《赤んぼ少女》の冒頭シーンです。
※多少の私の脚色あり。(^^)
話題にのぼった途端、とんとんと話がすすみ、もう見てしまいました 《 赤んぼ少女 》 。
なにしろ2週間の限定公開、早く見ないと終わってしまいます。日本で6館だけの公開、レイトショー以外で見れるのはここシアターN渋谷だけ。
原作は楳図かずお。初期に続いたホラー作品の、そのまた初期のものです。いまだ多くの少女がそのトラウマに苦しむこの作品。Kさんもその一人。小さい時に従兄弟の家で読んだこのマンガ、そこに登場するタマミちゃんが忘れられないそうです。そんな隠れた名作があったのか。
彼女から聞いた話はこう。孤児院で育った葉子、実はお金持ちの娘。屋敷を訪ねると、そこにはタマミという赤ちゃんが。普段はバブー、バブーとおとなしいが、実は葉子と同じ齢。
気の触れた母親を隠れみのに、葉子にさまざまな意地悪を仕掛けてくる。でもタマミは可哀想な子。最後、葉子を殺そうと硫酸を持って暴れるが、逆に自分にかかり、死んでしまう。ちっちゃい(チャイルドプレイのチャッキーみたい)のに怖い。
赤ちゃん姿と本性のギャップが激しい。最後、過去の自分の行いを懺悔し、悔い改めて死んでいく、そんな悪役キャラ、他にはいな~ぃ!
・・・なるほど。
確かのインパクトのあるキャラ、いろいろ仕掛けられそう。そう思って見にきましたが続きは残念。せっかく野口五郎や浅野温子と有名どころが登場してくるも、内容はスプラッタ路線に。
CGタマミが飛ぶ飛ぶ、走る走る。首も飛ぶ、手首も飛ぶ、犬の目はつぶれる、左肩切り落とされる。もっとタマミが陰鬱に葉子を苛め、しらばっくれる姿が見たかったのにって、どんな期待だ。
(^_^;
あんまり残念だったので、ロビーで原作の復刻版を購入。これが正解。
おぉ、タマミがトコトコ歩いている、リアル! きゃー、熊の縫いぐるみに隠れて覗いてる! 今度は壷の中だぞ、一歩間違えばギャグ化してしまうタマミを巧みにホラー演出。
実はタマミが葉子を襲うのは、美しいものへの嫉妬から。葉子が来る前から自分の姿を嘆き、ひとり井戸の中で泣いてたこともわかります。この辺の情感、異端者の悲しみなんて、今は受けないのかなぁ。映画でも原作でも、タマミが葉子の化粧品を使うシーンがでてきます。でもその後涙する理由が伝わってくるのは原作の方。
最後、 《 ほんとうはおまえがわたしをいじめてたのよ 》 の言葉が心に響くのも原作の方です。
でも待てよ、何か足りないような。映画で、じんときたシーンが抜けている、いったいどこだ。それは葉子の台詞でした。
《 いったい私が何をしたというの? 私はただ幸せになりたかっただけなのに。ただ孤児院をでて、人並みの幸せがほしかっただけなのに 》
悲劇のヒロイン、葉子。タマミに追い詰められて、叫ぶこの台詞が映画では心に残りました。水沢奈子(葉子役)の演技力か、それとも通り魔の多い今の世相に合ってたからか。
シアターN渋谷は小さな映画館、100名程度のキャパシティ。どんな人が見にくるのかな、一人くらいコスプレがいないか楽しみ。
実際はそれなりの年齢(原作を知る)の人ばかり。これは一人で見に来る映画なのか、カップルは若い西洋人だけ。異様に楳図かずおに似てる人や、タマミ風ヘアスタイルの人、ちょっと極(ごく)な人がいました。笑い声ひとつ発することなく、とても大人しい鑑賞をしてたのが、ちょっと意外でした。
資料
原題:赤んぼ少女
コピー:あの伝説のトラウマ作品、戦慄の映画化!
監督:山口雄大
脚本:小林弘利
原作:楳図かずお
制作:ー
製作総指揮:大月俊倫
音楽:原田智英
主題歌:ー
撮影:岡雅一
編集:今井剛
南条葉子 / 水沢奈子
南条敬三 / 野口五郎
吉村高也 / 斎藤工
運転手 / 板尾創路
吉村誠也 / 堀部圭亮
南条夕子 / 浅野温子
配給:日活
公開:2008年08月02日
上映時間:104分
製作国:日本
言語:日本語
制作費:ー
本編を観るには・・・
参考・引用
映画『赤んぼ少女』オフィシャルサイト
浅野温子が怖すぎる「赤んぼ少女」|ゾンビの数だけ抱きしめて
読書と映画 【邦画:ホラー】 赤んぼ少女
更新履歴
3稿)2015年04月20日、シネマドローム
2稿)2011年06月09日、シネマパレード~隼
初出)2008年08月11日、東京つまみ食い