原題 Kubo and the Two Strings
惹句 その音は、運命を呼び覚ます。
監督 トラヴィス・ナイト
俳優 クボ / アート・パーキンソン
女優 サリアツ / シャーリーズ・セロン
俳優 ハンゾウ / マシュー・マコノヒー
俳優 月の帝 / レイフ・ファインズ
ストップモーションを越えたスケール、構図、カメラアルグル。異国情緒漂う戦国時代が微笑ましい、KUBO/クボ 二本の弦の秘密の感想です。
紹介
日本の封建時代を舞台に、少年クボが活躍する3Dストップモーションアニメ。
魔法の三味線で折り紙を操る少年クボ。左目を奪った祖父から逃れ、病の母と身を潜めていたが、叔母たちに見つかり窮地に。身を呈して守ってくれた母の言葉に従い、3つの武器を探すクボ。お供は口うるさい猿(サリアツ)と陽気なクワガタ(ハンゾウ)。
嵐の海を小舟で進むクボとサリアツ、クボの折り紙大道芸、ガシャドクロ・闇の姉妹との対決シーン。ストップモーションとは思えないスケール、スピード、カメラアングルに圧倒されます。
2017年公開、ライカ制作。日本語版のKUBOの吹き替えは、矢島晶子(クレヨンしんちゃん)。
感想
日本の戦国時代が舞台のストップアニメーションだって!? と、公開当時から気になっていた「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」。観てみました。感想は大きく以下の3つです。順に書いていくと・・・。
【1】ストップモーションアニメの進化に驚き
冒頭シーン。サリアツが赤子のクボをかかえ、嵐の海を渡るシーン。ここが凄い。
巨大な波が山のよう、その山腹を静かに下る小舟。大きな波がうねる様子も凄いですが、それを形成する小さな波まで、動くのに驚き。これをストップモーションで撮るって・・・。
上から3番目の左から4番の波は、右側が上がって、上から3番目の左から5番の波は、左側が上がって、あれ?次は何番目だっけ!?なんてことにならないのでしょうか。
(^_^;
メイキングを見ると、そのからくりがわかります。波の正体は布のよう。端が凸凹になった板をいくつも並べ、その上に布をかける。板をコンピューター制御で、互い違いに動かし、波浪を表しているようです。なるほど、全てひとコマひとコマ撮ってる訳じゃないんだ。むしろCGより楽?
町に出たクボが、魔法の三味線と折り紙で物語を語るシーン。これも凄い。
日銭を稼ぐために、クボがハンゾウ(母から聞いたクボの父)の物語を語ります、折り紙たちの寸劇付き。
この折り紙たちが実にイキイキと動きます。特に火を吐く鳥と、鮫に食われたハンゾウが腹から脱出するところが好き。
それにしてもクボの吹替えが、矢島晶子とは驚き、とてもクレヨンしんちゃんとは思えません。最近の声優は声紋まで変えられるのか? 野沢雅子とか、みな同じに聴こえるけど。
闇の姉妹がクボを追い、街を襲うシーン。旅するクボが、たくさんの鳥を出し、サリアツをからかうシーン。ストップモーションのモブシーンって、撮るの大変だろうな・・・。でもその苦労を感じさせないところが凄い。短いカット、凝ったカメラアングル、話のスピード感が、それを隠し、物語にのめり込ませてくれます。
撮るのが大変なのに、なぜ、わざわざストップモーションを選ぶのか。それがわかるシーンも。例えば、クボやサリアツ、町の人たちが着る着物。CGでは表せない暖かさがあります。テクスチャー技術がもっと進歩すると、CGでも可能になるかもしれませんが。
【2】いったい、これはどこの国?
日本、それも戦国時代が舞台ということですが、ところどころ違和感を覚えたのは、私だけでしょうか?
クボはドレットヘアーだし、町の人は皆つり目で中国人ぽい。闇の姉妹は韓国伝統の笠帽子かぶっているし、砂漠に石像って、トルコ辺り? 外国の人に映る日本は、こんな感じなのでしょうか。私が想像しているアメリカも、思い違いだらけなんだろうけど。
とはいうものの。洋画でここまで日本らしい日本を見たことはなかったような。盆踊りで炭坑節「月が出た出た~♪」が流れた時は、凄いと思いました。タイトルが縦書きででてきた
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以来かも。あちらもいろいろ、なんでしたが。
折り紙、三味線、灯籠流し、盆踊り、花火、ガシャドクロ。三種の神器ならぬ、三種の武器(折れずの刀、刺さらずの鎧、割れずの兜)。キャラクターにかぐや姫や桃太郎の話を思い出すという人も。
日本の風習、その心まで理解してる感じ。制作チームの日本に対する愛情を感じます。日本人が描く日本より、本当の日本に近い日本が描かれる日も近いのかも。
【3】二本の弦の秘密の秘密
終盤。月の帝と対峙するクボ。すでに母 サリアツが倒れ、父 ハンゾウが倒れ、クボはただひとり。そのクボに祖父である月の帝は言います。もうこの世界には何もない、ワシと一緒に月の世界に来ないかと。
しかし、この言葉に耳を貸さないクボ。抗い、痛め付けられ、敗れるクボ。しかし闘いをやめません。クボの手には三味線。その弦は三本。母親の髪の毛、父親の弓、そして自分の髪です。
「そなたの大事なものは、みな死んだ。大切なものはすべて奪い去られた」と月の帝。
「違う、思い出は残って、何より強い力になるんだ」とクボ。
かき下ろした三味線の音(ね)。、月の帝は生滅。怪物の姿から好好爺に変わります。
※ このくだりには、少し身に染みるものが。父や母と暮らした一軒家に、ひとり住んでいると、あれこれ思い出すことがあります。ただあんなことがあったなぁと思い出すだけですが、それが実は元気の素になっているのかも。そう思いました。
迫力のある映像、展開の早さに「あぁ、面白かった」と観終わってしまいますが、思い返すとわからない事も。
例えば、月の帝がクボの眼を狙う理由。てっきり、駄目になった自分の眼の代わりを探しているのかと思ってましたが、違うような。 クボの言うように、ただの意地悪なだけなのでしょうか。裏切った娘憎さが孫にまで? それとも、その辺に触れると残酷描写が避けられず、年齢制限にひっかかるので、ぼやかしたのでしょうか。はたまた、予算や制作日数が足りなくなったのか。三種の武具も全部揃ったら、もっと特別なことが起きるだろうと期待していたのに、地味だったような気がします。
映画は多くの人間が関わって、膨大な制作費をかけ作るもの。ありきたりでは駄目とか、CM用に気をひくシーンを作れとか、横槍がたくさん割り込んできそう。細かなシーンは完成してるのに、大筋が強引な展開なのは、そのせいで、あちこち直しているからかもしれません。
本編は、記憶を失い、ふつうのお爺さんになった月の帝が、町の人たちから、あなたは優しい人だったと言われ、それを信じ、丸く収まるという終幕。スッキリするような、しないような。もし私だったら、こうするかもしれません。
戦いの中、サリアツがよみがえり、二人の中に割って入る。しかし、月の帝の圧倒的なパワーに歯が立たない。助け合い、何度も何度も挑んでくるクボとサリアツ。月の帝は助け合う二人の姿に、子供の頃のサリアツと自分の姿を重ね合わせます。月の帝は二人を許し、月へと帰って来た行くのでした。めでたしめでたし。
・・・盛り上がりにかける!カタルシスがない!! ありきたりだ!!! あぁ、横槍で炎上しそうだ。
(^_^;
おわり
蘊蓄
本作の美術は水墨画や折り紙などの日本の事物に影響を受けている。とりわけ浮世絵の版木の様式から、ライカは映画全編を「あたかも動く木版画を見て感じるような」方向で製作した。
作中に登場するがしゃどくろは16フィート(4メートル87)・400ポンド(181キログラム)のパペットが制作陣によって作られ、ライカはストップモーション用のパペットとしては最大であると主張している。動かすためにライカは操作の容易なロボットを製作しなくてはならなかった。制作陣は一時期、eBayで購入した産業用ロボットを使おうとしたが、彼らの組み立てでは動かないことがわかった。アニメーションスーパーバイザーを務めたブラッド・シフによると、実際の操作は、胸はプラットフォームの上に載せてジョイスティック状のレバーで遠隔操作し、腕と頭は手で動かしたという。
クワガタは20体、サルは24体が作られ、一つのカットは一人のアニメーターが担当する形で撮影されている。人物の表情は口や眉のパーツ(各約8000種類)を交換することで変化させる。
本作は各方面から高い評価を得た。Rotten Tomatoesでは185人から97%の支持率を得て、レーティングの平均は10点中8.4だった。当サイトでは総合的な評価として「『クボ 二本の弦の秘密』はあらゆる世代に対し、夢中になるような、そして勇敢で陰鬱さもある物語を、驚くべきアニメーションによって提示した」と記されている。
どの人も上手かった。とてもはまっていると思いました。主人公のクボがクレヨンしんちゃんだとは見終わって感想をあさるまで気がつきませんでした。そして、ばあちゃんが小林幸子だとはぜんぜん気づいてませんでした。いい味だしまくりでした。
そして、ばあちゃんが小林幸子だとはぜんぜん気づいてませんでした。いい味だしまくりでした。
まず、クボがお盆でお父さんへの灯籠を作るも火が灯らないことに失望するシーン。この時、何故灯りがともる事がなかったのか。それはまだ父親が生きているからです。お盆は死者を迎え、見送る日本版の死者との祭り行事であるという根っこを掴まないと出てこない上手い伏線です。
途方もない制作過程~驚愕の数字トリビア~
94週……総制作期間
1,149,015時間……総作業時間
3.31秒……1週間で制作される尺の平均
133,096コマ……総コマ数
30体……クボの人形の数
4,800万通り……クボの表情の数
3,000万通り……サルの表情の数
408個……一つのカットで使われた顔の最大個数
75分……骸骨の大広間で使われた1枚のタイルに色をつけるのにかかった時間(制作された総タイル数380枚)
4.9メートル……巨大骸骨の身長(ストップモーションアニメ史上最大)
5センチ……折り紙でできた小さなハンゾーの大きさ(ライカ作品の中で最小の人形)
250,000枚……落ち葉の船に使われたカラーペーパーの数
19ヶ月……落ち葉の船のシーンの撮影期間
177,187本……使われた綿棒の総数
インスピレーションの源
「クボ」は、今作のキャラクターデザイナーであるシャノン・ティンドルの日本の友人の名前から取った。
クボの亡き父ハンゾウは、黒澤明監督の名作『七人の侍』で、史上最高の侍の役を演じた日本の伝説的俳優、三船敏郎に敬意を表し、彼に似せて作られている。
絵柄は、版画の巨匠、葛飾北斎や斎藤清をはじめとする、古典的な芸術、版画に触発されている。
衣装デザインのチーフ、デボラ・クックは日本のデザイナー、イッセイミヤケの有名なプリーツや折りの技術を研究し、照明のディーン・ホームズは、日本が舞台のドキュメンタリー作品をいくつも鑑賞した。
人形チームは、ポートランド美術館で侍の鎧をリサーチした。
クボの眼帯は、封建時代の伝説的な武士であった片目の伊達政宗と、徳川幕府に仕えた剣の名士、柳生十兵衛三厳に敬意を表したものである。彼らは二人とも眼帯をしていたことで知られている。
製作の指針となったのが、日本のわびさびという美意識。仏教の教えに由来するこの世界観は、儚さや不完全さを美しいものと考える価値観である。
スタジオライカのこだわり~芸術と科学の融合~
これまで人形の頭部は顔の表情を変えるのに、別のものと交換するという方法が採られてきたが、ライカは3Dプリンターを用いて、顔の上の部分と下の部分のパーツに分けてプリントすることで、表情の幅を劇的に広げた。
撮影に使用する為、全ての登場人物の顔を、ヤスリで磨き、スプレーでコーティングし、磁気をつけ、歯と唇は手で塗装するなど、10もの段階を通って準備しなければならなかった。
水の動きは、メタルの棒に取り付けられた布や、小さく千切った紙、壊れたガラスのパネルなどを利用し、気が遠くなるような試行錯誤の末、リアルな海の質感を作り出した。
人形の動きにリアルさを追求するために、ダンスとアクションの振付師を採用し、彼らの動きを人形で再現した。
サルの体は、基礎の骨組みに、硬い繊維ガラスで編み上げたものと柔らかい生地で覆われた型を貼り、肉付けとして豆が入った袋を一つ一つ手作業で取りつけた。そして最後に四方に伸びる毛皮のスーツを着せた。こうして、サル特有のひねりや、伸びのある動きが可能となった。
『クレヨンしんちゃん』の野原しんのすけ役を1992年4月放送開始から26年3ヶ月にわたって担当していたほか、『ホーム・アローン』シリーズ(ケビン)や『スター・ウォーズ エピソードI』(アナキン・スカイウォーカー)、『シックス・センス』(コール)など、子役の吹き替えを多く担当している。
なお、初期から存在する、しんのすけの特徴的な笑い方は、矢島の弟を真似している。
資料
原題 Kubo and the Two Strings
英題 Kubo and the Two Strings
惹句 その音は、運命を呼び覚ます。
脚本 マーク・ヘイムズ、クリス・バトラー
原案 シャノン・ティンドル(英語版)、マーク・ヘイムズ
監督 トラヴィス・ナイト
制作 トラヴィス・ナイト、アリアンヌ・サットナー
指揮 -
音楽 ダリオ・マリアネッリ
主題 レジーナ・スペクター「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」
撮影 -
編集 クリストファー・マーリー
美術 -
俳優 クボ / アート・パーキンソン(矢島晶子)
女優 サル/サリアツ / シャーリーズ・セロン(田中敦子)
俳優 クワガタ/ハンゾウ / マシュー・マコノヒー(ピエール瀧)
俳優 月の帝(ライデン) / レイフ・ファインズ(羽佐間道夫)
女優 闇の姉妹(カラスとワシ) / ルーニー・マーラ(川栄李奈)
俳優 ホサト / ジョージ・タケイ(佐野康之)
俳優 *ハシ / ケイリー=ヒロユキ・タガワ(さかき孝輔)
女優 カメヨ / ブレンダ・ヴァッカロ(小林幸子)
女優 マリ / メイリック・マーフィ(杉山あいり)
会社 ライカ
配給 ギャガ
公開 2017年11月18日
上映 102分
国旗 アメリカ合衆国
言語 英語
費用 $60,000,000
収入 $77,548,564
本編を観るには・・・
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参考・引用
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KUBO クボ 二本の弦の秘密 – ウリィートゥカの夢(冷世伊世) – カクヨム
更新履歴
2稿)2020/01/28、シネマドローム 感想追加
初出)2020/01/21、シネマドローム