★[感想]フレンジー【ネタバレ】

 感想記事の抜粋


原題 FRENZY
惹句
監督 アルフレッド・ヒッチコック
俳優 ジョン・フィンチ
俳優 バリー・フォスター
女優 バーバラ・リー・ハント
女優 ジーン・マーシュ
蘊蓄 主題曲はもともとヘンリー・マンシーニが作曲、しかしヒッチコックが気に入らず没となった。
ヒッチコックの晩年のスマッシュヒット。フレンジーの感想です。

 

 

作品紹介

ヒッチコック晩年の傑作、イギリスに戻った監督の面目躍如。
犯人に間違えられる《 巻き込まれ型 》の定番ストーリー。序盤突然明らかになる真犯人。逃げ回る男と犯行を重ねる犯人。観客の先読みを見事にかわし続け、ラスト5分で決着させる展開に拍手。
遊び心たっぷりのカメラワークに思わずニンマリ。
ヒッチコック監督初のR指定。残酷シーンのカットされたテレビ版の方がお勧め。
 

 

物語

テームズ川に上がった全裸の女性死体。人々はまたネクタイ殺人かと恐怖と怒りを露(あらわ)にする。
バーテンを首になったリチャードは先妻ブレンダのもとに。二人の言い争った翌日、ブレンダが死体で発見される。その首にはネクタイが巻かれていた・・・。

感想

パッパパララパッパラ~

ヒッチコックに傾倒、ビデオや自主上映を捜し歩いていたのはもう随分と前になります。そのきっかけとなった作品がこれ。
友人のエアチェックを借り、夜中ベットに潜りこんで鑑賞、ストーリーが進むにつれ、起き上がり、胡座(あぐら)になり、最後エンドロールが出た時には呆然と立ち尽くしていました。

《 私も何かしなければ 》と思わされる程の衝撃。

意外な犯人なんていうのは数パターンの中からの選択、物語の展開にこそ《 あっ 》と言う醍醐味が。先読みを悉(ことごと)く裏切られる小気味よさ。どうなるんだ、どうなるんだと思っていると残り5分。スパッと終わらせてくれるラストに唸(うな)りました。

ヒッチコキアンのつぶやき

ヒッチコックなんて使い古された手法だという人がいます。当然、たくさん真似されて、今見るとありきたりのパターンも。でも先駆者の作品には劣化しない輝きがあります。

《 レベッカ 》の耳元の囁き、《 海外特派員 》の傘、《 断崖 》のミルク、《 白い恐怖 》の銃口の動き、《 知りすぎた男 》のシンバル、《 裏窓 》のギブス、《 めまい 》の尼僧・・・。
(^^;
《 北々西に進路を取れ 》の複葉機とトラック、《 鳥 》のジャングルジム。そして《 フレンジー 》の葡萄。

できればリアルタイムで見たかったものです。でも今回、フレンジーをノーカット版で見て複雑な気持ちに。テレビ放映ではカットされたブレンダの殺害シーンが残酷過ぎ。見てて気分が悪くなりました、R指定も納得。おかげで大手を振っては薦められなくなったのが残念。

スタッフもこのシーンのカットを勧めてたというのに…。まったくヒッチ親父め。

<ここからはネタバレ、できれば映画を観てから読んで下さい>

雄弁に語るカメラ

…とはいえ小技の利いたシーンの数々が色あせることはありません。カメラワークを交え順にあげていくと。

冒頭、テームズ川上空をゆっくりと飛ぶカメラ。ふらふらとタワーブリッチを越えていきます。演説の群衆に近付くとそちらに旋回。どうやって撮ったんだろう?と気が付く人は不思議がります。小型ヘリコプターを使ったカメラワークはこれが初めてだとか。

バーテンダーを首になったリチャード・ブラニー。友人のラスクが同情、金の工面を申し出ますが、彼は断ります。取(とれ)たての葡萄と競馬の大穴情報をもらうリチャード。しかし、金がなく結局、馬券は買うことができません。カフェで時間をつぶした後、彼は再びラスクに会い、予想通り大穴が出た事を聞かされます。ラスクと別れた途端、葡萄を道に叩きつけ、踏み潰すリチャード。彼の逆上(FRENZY)する性格を突然見せられ観客は驚き、戸惑います。この同情されない男を一方の主人公にするところが巧い。

結婚相談所を経営するブレンダ・ブラニー(リチャードの先妻)。その前に現れるラスク、もう一方の主人公。早々に真犯人だと判明します。ブレンダのりんごを齧り、lovelyを繰り替えすラスク。

げーー、気色悪い。
(–;

ブレンダのヌードは代役らしいですが、舌が捻(ねじ)り出した死体がショッキング。

犯行後すぐに立ち去るラスク。入れ替わりにやってくるリチャード。そして出て行くリチャードを今度はブレンダの秘書、モニカが目撃します。カメラはビルに入っていくモニカのアングルで固定。

暫くの沈黙の後、モニカの悲鳴。

前を通りかかった主婦二人が、あらまぁ、嫌ねって顔をして、そのまま通り過ぎます。敢(あ)えて映さないことで見せるカメラ。唸ります。

リチャードと共に海外逃亡を計るバブス。ラスクが真犯人と知らす助けを受け入れ、共に彼の部屋へ向かいます。建屋に入り、曲りくねった階段を昇る2人。それをたどるカメラ。ラスクがバブスにlovelyと言ってとを戸を閉めると、カメラは来たルートをゆっくりと降りていきます。それでも部屋の中で何が起こっているのか、手に取るように分かります。どんどん引いて建屋の外、それでもカメラは引き続け雑踏の中へ。これが全てワンカット。(実際は道路を歩く人の背中で一度編集が入っている)

う~ん、すばらしい。セリフでも演技でもストーリーでも音楽でもなくカメラが雄弁に語っています。ヒッチコックがこんなこともできるんだよと言ってるようです。

部屋で寛(くつろ)ぐラスク。ネクタイピンがないことに気が付きます。犯行シーンのフラッシュバック、慌て出すラスク。麻袋に捨てた死体を確認にトラックの荷台に潜(もぐり)込みます。運転手がやってきて走りだすトラック。

荷台の中で死体との格闘が始まります。袋からじゃがいもと供に飛び出したバブスの足がラスクの顔を歪めます。ようやく見つけたネクタイピンはバブスの握こぶしの中。指を一本一本折って、なんとか取り返します。途中、じゃがいもが道路にこぼれ出て、運転手が荷台に。あぁ~捕まっちゃうとラスクの心配をし始めちゃうのが不思議です。

ラスクの計略で警察に捕まるリチャード。裁判シーンのカメラは法廷の外。時々開くドア、そこからリチャードの無実の声が聞こえます。肝心(観客にはどうでもいい?)な台詞は全部カット。思わずニンマリさせられます。

判決は有罪。ラスクが真犯人と叫ぶ声をオックスフォード警部だけがじっと聞いています。

<ここからはオチバレ、ぜひとも映画を観てから読んで下さい>

ラスト。ラスクが真犯人であることを突き止めたオックスフォード警部。一刻も早くリチャードを釈放せねば。しかし当のリチャードは警察病院から脱獄。盗んだ車でラスクの元に向かいます。追うオクスフォード警部。リチャードは鉄棒を握り、ラスクの家の階段を昇っていきます。一段、また一段。怒りに震えながら鉄棒を握り締めるリチャード。部屋にはカギがかかっていません。ベットで眠るラスクに思いきり鉄棒を振り下ろすリチャード。はみ出す長い腕、その手首にはブレスレットが。そして首に巻かれたネクタイ。ベットには見知らぬ女が死んでいました。

そこへ飛び込んでくるオクスフォード警視。俺じゃない、叫ぼうとするリチャードを静かにと制止するオクスフォード警視。聞こえてきたのは何かを運びながら階段を昇る音。戸を開けてラスクが入ってきます。顔を見合わす3人。オクスフォード警視が呟きます。

「ラスクさん、ネクタイをしていませんね」。

ラスクの手から(死体を始末するための)木箱が倒れ、その上にエンドロールが出ます。

ひぇ~、なんという終わり方。謎解きなど必要ない一瞬の解決。もう一度間違えられそうになった途端だけに一層終わりが映(は)えます。お見事。

今度の週末に

この後の撮影は《 ファミリープロット 》の1本のみ。1980年、ヒッチコック監督は永眠します。SFXを使った細密でリアルな映像が溢れる今の映画。なのに大道具が大活躍の監督の映画に《 あっ 》と言わされるのはなぜでしょう。原作からのインスピレーションを見事に映像に昇華、カットとカメラワークで語るヒッチコック。

当時はモラル(倫理)がないと批評されていたとは驚きます。サスペンスの神様の映像、週末に借りて見るのはどうでしょう?レンタルの棚にたくさん余ってるのでは。お勧めです。

終わり

薀蓄

フレンジー(FRENZY)の意味は精神錯乱の発作、逆上、取り乱し
主題曲はもともとヘンリー・マンシーニが作曲、しかしヒッチコックが気に入らず没となった。
テームズ川で公害問題を演説する男。ヒッチコック自身も群衆の一人として出演している。
ブレンダ殺害後、その眼が極端なクローズアップになる。このときヒッチコックは、瞳孔散大剤入りの目薬をブレンダ役のバーバラ・リー・ハントに差させ、瞳孔を死者のように広げている。これは『サイコ』のシャワー殺害後のジャネット・リーの眼が同じようにアップになった際、瞳孔が閉じているとの指摘を受けたことに対する「反省」からである。

 

資料

原題 FRENZY
英題 FRENZY
惹句 ロンドンから悲鳴! 絞殺魔が次々と起こす恐怖の衝撃波 追われる男が真犯人に迫るクライマックス……
サスペンスの神様ヒッチコックがあなたを追いつめる華麗なる最新作
脚本 アンソニー・シェイファー
原作 アーサー・ラ・バーンの小説『フレンジー』

監督 アルフレッド・ヒッチコック
製作 アルフレッド・ヒッチコック
指揮
音楽 ロン・グッドウィン
主題
撮影 ギル・テイラー
編集 ジョン・ジンプソン
美術

俳優 リチャード・ブラニー(元空軍パイロット)/ ジョン・フィンチ
俳優 ボブ・ラスク(果物商)/ バリー・フォスター
女優 ブレンダ・ブラニー(リチャードの別れた妻)/ バーバラ・リー・ハント
女優 モニカ(ブレンダの秘書)/ ジーン・マーシュ
女優 バブス・ミリガン(リチャードの恋人)/ アンナ・マッセイ
俳優 オックスフォード警部 / アレック・マッコーウェン
俳優 ジョニー・ポーター(ブラニーの戦友)/ クライブ・スウィフト
女優 ホッティ・ポーター(ジョニーの妻)/ ビリー・ホワイトロー
俳優 フォーサイス(パブ主人)/ バーナード・クリビンス

会社 ユニバーサル・ピクチャーズ
配給 ユニバーサル・ピクチャーズ
公開 1972年7月29日
上映 116分
国旗 イギリス、アメリカ合衆国
言語 英語

費用
収入

 


 

本編を観るには・・・

関連 ~ ヒッチコック映画

参考

フレンジー – Wikipedia
ヒッチコックの「フレンジー」 あらすじ – doranyankoの茶室
FRENZY
映画 フレンジー(1972) ヒッチコック晩年の作品、流石はヒッチコック様だね – ザ・競馬予想(儲かるかも?)
再びヒッチコック特集10 フレンジー(1972年 サスペンス映画) | 女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」
「ラスクさん、ネクタイはどうされました?」―『フレンジー』(1972 英=米)を観て : ピンポイント・ブリッツ―或いは残念で雑な戯言ブログ
藍空放浪記: 『フレンジー』アルフレッド・ヒッチコック

更新履歴

5稿)2021年11月15日、シネマドローム
4稿)2015年10月11日、シネマドローム
3稿)2015年04月05日、シネマドローム
2稿)2010年12月21日、シネマパレード~隼
初出)2005年07月11日、東京つまみ食い
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