黒澤明の現代劇、原子爆弾が日本人に残した傷跡とは・・・。いきものの記録の感想です。

 

作品紹介

1955年公開の黒澤映画。当時35歳の三船敏郎が「核兵器の脅威」におびえる70歳の老人を演じ、話題を呼んだ。
「生きる」「七人の侍」と大ヒットに続いた作品にもかかわらず、記録的な不入りに終わった。
 
 

感想

志村亮(当時50歳)よりも年上役の三船敏郎(当時35歳)。黒沢映画で多く共演してる二人ですが、これは珍しい。私は他の人の感想ほど違和感は覚えませんでした。むしろ三船敏郎の痩せてる姿に驚き。これは晩年の星一徹だ。役作りのため無理な減量でもしたのだろうか。

「いきものの記録」が公開されたのは1955年。「七人の侍」の次に公開された作品です。
社会派の現代劇。家庭裁判所での地味な親子の対立。「これは私の見たい黒沢映画ではない」と思った人も多そう。興行成績が振るわなかったのも納得です。そうなんですが・・・。

一財産を築いた中島喜一(三船敏郎)。そのバイタリティで妾(めかけ)が四人。当時はこれが男の甲斐性?だったのでしょうか。今で言う愛人とか、不倫とかか。でも人数はさておき、根本的に違う気が。この映画をみる限り妾には家族を感じます。あぁそうか、子供がいるからか。

海の向こうの生活を8mmフィルムで見せるブラジルの老人。一堂に会した中島一族、物凄い数の家族。ビックダディなんてこの頃は普通だった模様。少子化なんて考えられなかった時代。なぜ日本は元気を失ったのか?あれこれ掃除のしすぎなんだろうなぁ。

原爆、水爆が怖くて頭がおかしくなる喜一老人。今考えれば幸せです。この後世界では公害あり、交通戦争あり、人工爆発あり。赤軍派、爆弾テロ、家庭内暴力、虐め、地下鉄サリン、エイズ、地球温暖化、エボラ 出血熱、同時多発テロ、イスラム国。毎年のように新鮮な不安が目白押し。コンクリート詰め殺人も、怪人21面相も、サカキバラも、地下鉄サリンも知らないなんて。外を出歩くのが楽しいでしょう。それに日本人が日本に作った発電所で、放射能被害が出るなんて思いもよらなかったろうし。

鋳物工場の焼け跡シーン。何度見てもセットには見えない。CGなんてないだろうし、やっぱり黒澤明、実際に焼いたのかなぁ。

ラスト近く、中島老人の呆けた顔が怖いです。 精神病院に入れられ、他の星に来てると思ってる喜一老人。気違いとか奇形とかをテレビや映画でタブー視されるようになって久しいですが、それが無くなったわけでもなし。隠すのはどうなのだろうと思ってました。しかしネットで溢れるようにある動画を見続けて来て、最近はある程度は隠すべきだと思うようになりました。このぐらいの描写が丁度いいんだな。

「死ぬのはしかたがない、しかし殺されるのは嫌だ。」とは、中島老人の台詞。死ぬのも嫌だなぁ。

「私はこの患者をみるたびにひどく憂鬱になって困るんです。こんなことは初めてです。狂人というのはみんな憂鬱な存在には違いありませんが… しかし、この患者をみていると、なんだかその…正気でいるつもりの自分が、妙に不安になるんです。狂っているのはあの患者なのか?こんな時勢に正気でいられる我々がおかしいのか…」とは、中島老人を診る精神医の台詞。狂いそうな状況でも狂わないでいる。自然ではないが正常ですよ、先生。60年後の日本ではもうそれが普通になってます。
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薀蓄

音楽の早坂文雄が、ビキニ環礁での水爆実験のニュースに、「こんな時代では、安心して仕事が出来ない」と漏らしたことをきっかけに制作された。早坂は、この後結核で死去したので、名コンビだった黒澤と早坂が組んだ最後の作品となった。
それまで黒澤作品において三船と共に主役級を演じてきた志村喬は、加齢のため本作を最後に主役級を退き、以後の黒澤作品では脇役及び悪役に転じていくこととなる。
『七人の侍』で採用した、複数のカメラで同時に撮影するマルチカム撮影法を本作で本格的に導入しており、3台のカメラを別々の角度から同時に撮影することで、俳優がカメラを意識せず自然な演技を引き出している。
主人公の放火によって焼け落ちた工場のセットは、東宝撮影所内にある新築されたばかりの第8スタジオの前で組まれ、新築のスタジオの壁面を焼け跡に見立てて塗装したため、会社から大目玉をくらった。また、都電・大塚駅のセットは都電の先頭車両を含めて、本物そっくりに作られた。
『あらかじめ分かっている問題にどうして対処しようとしないのか』というのがテーマとなっている。
映画監督の大島渚は鉄棒で頭を殴られたような衝撃を受けたとしており、徳川夢声は、黒澤に対して「この映画を撮ったんだから、君はもういつ死んでもいいよ」と激賞したという。また映画評論家の佐藤忠男は「黒澤作品の中でも問題作」と述べている。

ワンシーン

黒沢明の映画には、いつも一ヶ所スクリーンに襟首をぐぐっと引っ張り込まれるシーンがあります。この映画の場合(同調される人は少なそうですが)終盤の次女(青山京子)が父を庇(かば)うシーンです。
ある日喜一老人が家族、そして妾の家族らも全員集め、私と一緒にブラジルに言ってくれと頼みます。しかし同調するものはなし。落ち込む老人。
しばらくして、工場が火事になります。すっかり焼け落ちた鋳物工場。次男が工員達に火の不始末を責める中、喜一老人が現れます。土下座をして詫びる職長。様子のおかしい老人。まわりを見回し、自ら火をつけたと話します。「とうさん、人を庇うのも場合によりますよ」と咎める次男。しかし老人は自分が、火を放った。工場あるとみんながブラジルに行かない、だから火を放ったと続けます。相手にしない次男。その場から逃げ出す次女。「すえ、すえ」名を呼び後を追う老人、次男。そう次女はすべてを見ていたのでした。
愕然とする次男。ブラジルへ行けば大丈夫と続ける喜一老人。それを見ている工員たち。「それじゃ旦那、俺達はどうなってもいいのかね」。今度は職長が涙ながらに老人に問いかけます。老人はハッとなり、頭を抱えてそして詫びます。お前たちも連れていく。「そんな費用が何処にありますかっ!」と泣きながら怒鳴りつける次男。そして普段おとなしい長男までもが「ブラジルの老人は怪しい」「ブラジルに行っても安全とは限らない」「水爆はもう地球をはかいするだけの数がある」と父を責めます。それを見ていた次女が叫びます。「なにさ、あんたなんか口先ばっかりで、なんにも本気で考えたこともないくせに!」「お父さんはね、ひとりで考えて、考えて、みんなのこと心配しているのに!!」「自分のことしか考えないのはあんたたちよっ!!!」
何度見ても泣かされるシーン。ほかの記事でこの場面に触れているのものをみなかったのですが、この映画の肝だと思います。娘はちゃんと見ているんだなぁ。あと、うちの老人にも気をつけなきゃ。火事はすべてをもっていくから。

資料

原題:生きものの記録
コピー:-
監督:黒澤明
脚本:橋本忍、小國英雄、黒澤明
原作:-
制作:本木荘二郎
製作総指揮:-
音楽:早坂文雄
主題歌:-
撮影:中井朝一
編集:小畑長蔵

中島喜一 / 三船敏郎
原田 / 志村喬
中島二郎(喜一の次男)/ 千秋実
山崎隆雄(よしの夫)/ 清水将夫
中島とよ(喜一の妻)/ 三好栄子
中島すえ(喜一の次女)/ 青山京子
山崎よし(喜一の長女)/ 東郷晴子
一郎の妻・君江 / 千石規子(東映)
栗林朝子(喜一の四妾)/ 根岸明美
須山良一(二妾の三男)/ 太刀川洋一
朝子の父 / 上田吉二郎
ブラジルの老人 / 東野英治郎

配給:東宝
公開:1955年11月22日
上映時間:103分
製作国:日本
言語:日本語

制作費:-

生きものの記録(プレビュー) – YouTube


   1950年代日本公開の映画一覧はこちら   

 

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参考

生きものの記録 – Wikipedia
十代目源右衛門雑記帳 黒澤映画「生きものの記録」の先見性
「生きものの記録」 I LIVE IN FEAR [DVD] (現代への警告・水爆の恐怖におびえる男): 踊 る 大 香 港
怪獣少年が観た黒澤明の『生き物の記録』 – 映画評論家町山智浩アメリカ日記
「生きものの記録」~黒澤明が突き付ける狂気の徴 – 酔生夢死浪人日記
『黒澤明監督「生きものの記録」は最も優れた原水爆映画だ!!~おすすめ黒澤映画、ベスト3もあるよ~』
黒澤作品のワーストについて考える  第六回  『生きものの記録』 – (中二のための)映画の見方

更新履歴

2稿)2017年12月19日、シネマドローム
初出)2015年05月28日、シネマドローム