● 若冲と江戸絵画展、いよいよ中へ。

■ 案内

● 円山応挙、長沢芦雪、曽我蕭白、伊藤若冲。ジョー・プライス氏が半世紀かけ収集した作品は、江戸時代の個性的な画家たちのものばかり。
● 作品は画家の系統別に5章に分けて構成
第1章 正統派絵画
第2章 京の画家
第3章 エキセントリック
第4章 江戸の画家
第5章 江戸琳派
※最後にガラスケースを用いず、照明が刻々と変化する展示室あり
● 《 親と子のギャラリー「プライスコレクション 若冲と江戸絵画」-あなたならどう見る? ジャパニーズ・アート- 》も併せて開催

● 会期/2006/07/04~08/27
● 会場/東京国立博物館 平成館
● 料金/1300円
 

■ 感想

◆ ガイドさんを独り占め

● 平成館に入ると中央に上りと下り、長い長いエスカレーターが。特別展示は2階らしい。昇り終えると左手に入り口がありました。何やら機械を貸し出していると思ったら音声ガイド。せっかくなので借りてみることに。レンタル料は500円、右耳か左耳かを聞かれ、左だと答えると取り付けてくれました。それにしても大きい。数字キーで番号(2桁)を入力し、再生ボタンを押すという簡単なもの。胸ポケットに入るとくらいにできそうだけど、あえてこの大きさなのは盗難防止のためかな? 展示は5つのエリアに分かれていました。まずは《 正統派絵画 》のエリアです。

● ここは狩野派や土佐派など、有名流派の作品とのこと。奇想の画家の前にノーマルな作品をということか。う~ん、確かに江戸時代の絵。古いというのはわかりますが、その良さはわかりません。代わりに館内を見渡すと、展示の絵の2枚に1人ぐらいの混み方。空いているという読みは当たったようです。
(^_^)

● 長い(6曲1双)の屏風のタイトルに解説マークが。ガイドマシンに番号を入力、解説を聞きながら見歩きます。しかし説明と見てる箇所が合わず、何度か後戻りするはめに。テレビのようにはいかないものです。引き続き《 京の画家 》のエリアへ。

● 江戸中期。京都の町には個性豊かなな画家があふれていたとか。円山応挙、長澤蘆雪、曾我蕭白、伊藤若冲、・・・。《 美の巨人たち 》を見る前までは円山応挙だけ、かろうじて名前を聞いたことがあるくらい。他の画家たちは専門家にも見過ごされていたらしい。注目を浴び始めたのはここ数十年のことだとか。屏風も掛け軸も、いち早くその魅力に気付き、京都の民家まで回って買い集めたプライス氏のものに。なんか日本ってそんなのばかりだなぁ…。

◆ 江戸時代の南の島

《 エキセントリック 》のエリアへ。奥に《 鳥獣花木図屏風 》があるのがわかります。慌てずにまず《 葡萄図 》を鑑賞。小さくな掛け軸、墨でかかれているのか黒の濃淡で描かれています。天然の葡萄というのはこのように実がなるのでしょうか? 枝、葉、実。色がなくてもその違いがわかるのが凄い。これはプライス氏の最初のコレクションなのだとか。大学の卒業祝いに貯金でスポーツカーを買おうとしていたプライス氏は古美術商でこの絵に出会い、一大決心。それ以来、若冲ら江戸時代の個性的な作品の虜になったそうです。私なら車を選んで絵はJPGファイルでいいけどなぁ。
 
 次は有名な《 鳥獣花木図屏風 》。さすがにここは混んでました。とても大きな屏風絵に見えますが、ほかのと同じ6曲1双。そう感じるのはそこに描かれている動物たちがそれぞれ大きいからかもしれません。ほかの絵がチマチマしてるように思えてくるほど。題材がまた象や豹、麒麟(キリン)や犀(サイ)。空想のものも含め30種類以上、南の楽園で幸せに暮らす動物たちといった感じです。特に右側の巨像の存在感。目がちょっと怖い。
 
 
【Google画像検索】 葡萄図
【Google画像検索】 鳥獣花木図屏風
 
 

それだけでも十分個性的なのに、この絵はさらに升目(ますめ)描き、色彩分割という手法で描かれています。名前の通り小さな升目、それも一双当たり86、000個という膨大な数で描かれています。ひとつの升目は数センチ。デジタル画像のピクセルとは違い、単色ではなく中にもう一つの升目があるのものもあります。《 美の巨人たち 》ではこれは新印象派の画家たち(スーラやシニャック)が使用した色彩分割を既に江戸時代に編み出していたのではと解説してました。また、動物の輪郭に合わせて、曲線が描かれたりしています。やはりこの当たりは日本人の感性、ジャギー(ギザギザ)に我慢ができなかったのかも。

テレビや写真では気が付かなかったのですが、ひとつひとつの升目は少し凸状になっています。それほど絵の具を重ねたということ? 油絵なら簡単そうですが。それにしても、なぜこんなこんな書き方を。解説マシンの説明では西陣織の設計図として使う正絵(しょうえ)なのではと《 新日曜美術館 》と同じことを言ってました。


 

◆オタクの系譜

エリアの後半は掛け軸が続きます。虎、鶏、鴛鴦(おしどり)、鯉、鷲、兎、鴉。すべてが若冲の作という訳ではないようです。イヤフォンからは《 紫陽花双鶏図 》の紫陽花が故意に平面的に描かれている理由が説明されてました。
 
 
【Google画像検索】 紫陽花双鶏図
 
 

若冲と言う人は裕福な青物問屋の長男に生まれたそうです。なんの不自由もなく育ち、40歳になると家督を弟へ。後は好きな絵を描いて暮らしていたらしい。欲もなく、描いた絵を一斗の米を交換したことから《 斗米翁 》と名乗っていた(いまなら渡米翁かも)とのこと。趣味に生きた人、時間はいくらでもあったんだろうな。羨ましい。
熱中が持続するタイプのようで、鶏(にわとり)を描こうと決めたら、まず鶏(とり)を庭に放ち、1年間は観察だけして過ごしたそうです。ますます羨ましい。私の場合は宝くじでも大当たりしない限り、そんな生活はできないなぁ…。
(;^_^A

ひとつひとつ見ていきますが、テレビで見た程の衝撃はなし。やはり解説を聞いて、部分のアップカットにわかったような気になってただけか。ただ、じっと動かずそこにある屏風と掛け軸。化粧をしてない美人か、素材の味を生かした精進料理か。虎もありましたが、キッチュにさえ思えてしまいました。でもこれらの絵のすごさは後でわかることになります。

◆ 飛び出す屏風

《 江戸の画家 》を見て、《 江戸琳派 》を見て。もうこれで終わりかとな思ったら、最後にもう一エリアありました。ここの展示は少し違います。まずガラスケースがありません。ここまでは近寄ってよしと、垂れ下がった紐で仕切られてはいるものの、目と作品との間を遮るものはなし。へんな人が作品を傷つけたりしないか、普通は作品の所有者がこのような展示は嫌がるそうですが、今回はプライス氏自身の希望だとか。作品の本来の良さをわかってもらうためだそうです。見る側も少し緊張。転んだ拍子に屏風に手をかけ、バリバリ破ったりしたら大変です。
(^_^;

もう一つは照明。光の角度が徐々に変化していきます。朝昼晩と刻々と変化する日の光を模したものだとか。ただこれだけですが、その効果は驚くべきものです。《 紅白梅図屏風 》という作品がありました。屏風一杯に咲き誇る梅の花。紅い梅と白い梅、その下を川が流れています。これが光の変化にあわせ、まるで別の絵であるかのごとく、その趣(おもむき)を変えていきます。紅い花から白い花へ、そして淡い青の川へと強調される部分が移っていきます。まるで色彩のモーフィング。これは面白い。
d(^_^)!

屏風や障子はその裏側や閉じた状態にも別の意味を持たせているという話は聞いたことがありますが、日の光の角度も考慮されていたとは。

作品は各エリアから少しづつ選択してるよう。長沢芦雪の《 白象黒牛図屏風 》もありました。川村美術館の牛に比べると随分と巨大、右の象に引けを取りません。白い象の上には黒い烏、黒い牛の下には白い小犬。そして相変わらず人を食った牛の顔。一番好きなのはこの絵かな。
 
 
【Google画像検索】 紅白梅図屏風
【Google画像検索】 白象黒牛図屏風
 
 
◆ 押し寄せる人の波

時間があるのでもう一度みようかと順路を逆戻り。すると戻れば戻るほど人が増えています。動物の掛け軸のところなど、絵の前が人が3列になってました。落ち着いて見るには、身長が2m30cmは必要です。これで同じ料金は申し訳ないなぁ。
(^_^;

常備展をみようと1階に降りると、《 親と子のギャラリー「プライスコレクション 若冲と江戸絵画」-あなたならどう見る? ジャパニーズ・アート- 》というのをやってました。細い廊下のようなところに掛け軸や並んでます。こちらは本当にガラガラ、誰もいません。前に小さな机があって、拡大鏡やなにやらが置いてあります。子供向けかな?と思いつつ、拡大鏡をガラス越しに掛け軸に当てて吃驚。《 唐獅子図/吉村孝敬 》という虎の絵でしたが、その毛の描き方が超細密。一本一本が睫(まつげ)のように細く短い。毛は先にいくほど細くなっていて、そのしなり方がなんとも自然。こんな細かいものを表現するのにデジカメだったら、何千万画素いるのだろう。液晶画面では表示できません。これだけ細部を描きながら、全体としてのバランスも崩れてない。果たしてこんな絵を一回で描くことができるのだろうか、できなくてもそれは別の意味で凄いです。86、000個の升目の方が大きい分簡単に思えます。描き上げた時の充実感といったらないだろうなぁ。拡大鏡を持って若冲の動物画に戻りたくなりました。

《 おまけ 》

● 展示会場内にあるミュージアムショップで面白いオリジナルグッツを2つ発見。鳥獣花木図のシルクシャツ(アロハ)とルービックキューブです。アロハシャツはシルク100%。紺青一色で右手に大きく象が描かれています。受注生産で1枚20,000円。ちょっとほしい。
一方、ルービックキューブはなぜ? と思ったら、桝目描きから発想したとのこと。なるほど。

● 平成館1階、右手のラウンジはお勧め。高級そうなどっぷりソファで、ゆっくりくつろげます。もちろん無料。お金を取る喫茶店の方が貧弱。

● 考古展示室はここにあったのか。縄文式土器を探すも見つからず。やっぱりあの形状、痛むから展示できないのかな。岡本太郎の撮った写真でもいいから、展示してほしいもの。

■ 薀蓄

 
● 奇想の画家という命名は美術史家・辻惟雄の書いた《 奇想の系譜 》の出版から
● 宇多田ヒカル「サクラドロップス」のプロモーションビデオに《 鳥獣花木図屏風 》が登場。象の鼻が動く
●《 鳥獣花木図屏風 》の作者が伊藤若冲であるか否かは議論のあるところ。落款や署名が無いことと、全体的な構図の甘さが指摘されている。
●プライス氏は《 鳥獣花木図屏風 》をタイルを使ってお風呂場に再現、象の鼻の部分がシャワーになってるそうです。
(^_^;


 
 
 

撮影年月:2006年08月
撮影場所:東京国立博物館
カメラ:Panasonic DMC-FX07



[ 更新記録 ]

2稿)2016年05月01日、街角アイキャッチ
初稿)2006年08月11日、七人の見たもの